誰にも気付かれない男

俺は、滅多に見ないスポーツ番組を見ていた。
その時、視覚より脳に刺激が走った。間もなく開催されるオリンピック、柔道デンマーク代表が、
昔、苦学を共にした懐かしいあいつ、ニコラにそっくりだったんだ。
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さっそく学生名簿を頼りに連絡を取ってみた。卒業して数年、なかなか連絡はつかないもんだ。
何せ噂では現在、最果ての地、グリーンランドに住んでいるという。
やっと電話が通じ、久々のなつかし話に花が咲いた。
ニコラは、オリンピック代表が、よく俺だと分かったなぁと言っていた。
そして、それが俺で初めてなんだと。トレードマークのあごひげもすっかり無くなっていたしね。
俺は、水臭いぜ。学生時代、苦しさを分かち合った仲じゃないか。って言ってやった。
そうして、北京へ出発する際、乗り継ぎ地であるコペンハーゲンで飲もうという話になった。
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ここはコペンハーゲンにあるバール。先日の電話でし足りなかった分を話したさ。
俺達は、大学で機械を専攻。俺はV社に入社、車の設計技術者になった。
ふと思った。俺はニコラの就職先を知らない。話が詰まった瞬間、ふと聞いてみた。
俺:「なぁ、ニコラ、お前今どんな仕事してるんだ?」
ニコラ:「マスター、アクアビットを頼む。」
お互い再度乾杯した。
ニコラ:「お前になら話してもいいかな。でもすぐ忘れてくれ。冗談話だと思ってくれ。長い話になるかもしれないが…。」
俺:「何だよ。水臭いなぁ。何でも話してくれよ。」
ニコラ:「お言葉に甘えるぜ。では、始めようか。」
そう言って、ニコラは、テーブルの前に1クローネ硬貨を置いた。
次の瞬間、その硬貨は忽然と消えた。俺は度肝を抜かれた。
ニコラ:「俺は、大学を卒業して、皆が企業へ就職していく最なか、自分のある能力に気が付いた。
不思議な能力。人が瞬きをする瞬間が予想できるんだ。」
そう言って、手のひらの1クローネ硬貨を見せてくれた。
ニコラ:「今、お前が瞬きする瞬間が予想できたんだ。そしてそのタイミングに、この硬貨を握り取った。
皆、瞬きっていうのはホンの一瞬と思っているだろうが、人によっては意外と長く目をつむっている人もいる。
ただその長さに気付いていないだけ。」
ニコラ:「生活の中でヒヤッとした経験があるだろう。例えば車の運転中とかにね。アレは思った以上の時間瞬き
をしているからっていうのも理由のひとつなんだ。」
ニコラ:「さて、本題に移ろう。俺はその能力を使って、世界中のカジノで荒稼ぎをした。有り余るくらいにね。
ディーラー、お客、監視カメラを見ているガードマン、皆が一斉に瞬く時を狙うんだ。
そのタイミングでチップを置く場所を修正していく。誰にも分からないのさ。」
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ニコラ:「スカッとするぜ。そこに居るのは金の使い方を知らない連中ばかり、そんな奴らから大金を奪い取る。
でもこれは、俺の裏の顔だ。そんな大金で何を買うのかって?オモチャさ…。」
ニコラ:「最近の子供は現実的になってしまって、夢を見なくなったような気がする。
目の前の心の汚さから開放される余裕がない。俺は大量のオモチャを買い求め、
冬になると恵まれない子供達の家を回り、そっと枕元にそれを置いているのさ。
そんな時も、この瞬きを知る能力は役に立つ。人の家に忍び込めばそれは泥棒同然さ。
でも、人が目をつむっている間なら、誰にも気付かれずに怪しまれずにオモチャと幸せを運ぶことができる。
現代版、サンタクロースって訳だ。」
 333
ニコラ:「そうして、今年の冬も俺の仕事は終わった。金なら有り余るほどある。カジノに行く必要もない。
今年の夏は、オリンピックが開催されるというではないか。俺は考えた。
俺の特殊能力、何かのスポーツに使えないかと、ふと考えた。柔道ならできるかも。」
ニコラ:「相手が目をつむっている間に技をかける。技はもちろん一本背負い。いつもオモチャ袋や、
大金袋を背負っていたから、うまくできるかなって。ものは試しで予選会に出てみたんだ。」
ニコラ:「簡単だった。相手が目をつむる瞬間に投げ飛ばしてやったぜ。そしてオリンピック代表になった。
そうして、お前がテレビで俺を見つけ、今夜コペンハーゲンで飲んでいるって訳だ。」
俺は、あっけにとられながらも話を聞き終え、言った。
俺:「自分の能力を最大限に使っているお前が羨ましいよ。でも不思議な話だなぁ。北京では金メダル頼むぜ。」
ニコラ:「ありがとうよ。でも金は無理だ。何せ日本人は心眼で柔道をするらしい。
目を開けてても閉じてても一緒な相手には勝てないよ。」
俺:「はっはっはー。」
バールに笑い声が響いた。
俺は次の日、空港までニコラを見送り、オリンピックでの活躍を祈った。
ギャンブラー、サンタクロース、柔道家、この似ても似つかない三つの仕事をする男。次は何をしでかすんだろうか???
 
 
P.S. 昨晩見た銀行強盗の映画「インサイド・マン」を見て思いついたショートショート
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誰にも気付かれない男」への6件のフィードバック

  1. ・・・すごいな~・・・いやぁお世辞抜きに面白かったよ。
    展開が良くまとまってるよね!
    タイトルも気になったし。ん~やるな~キースさーん。

  2. う~…途中までホントの話だと思いました。
    柔道デンマーク代表をチェックしなければ!!って思ったら・・・・
    サンタだったの!?
    瞬きする瞬間がわかる人ってホントにいるかもしれないですね。
    ここに来れない間に時計草が大きくなって、ハチさんまでやってきて!
    楽しませていただきました~
     

  3. すごいですねえ。
    小説家ですねえ。
     
    自分には話をつくる才能はナッシングです。
    小学生のとき、図工の時間でオリジナル絵本をつくりましたが、すごいつまらないものができましたよ(笑)
     

  4. 洋子しゃんへ面白かったー?良かったー。これで、マスクは守られたかな???つじつまが合った時はパズルが解けたみたいで爽快だよ。
    azuちゃんへ嘘話だと思ったの?本当だよー。azuちゃんの瞬きする瞬間も知ってるんだぞー。時計草は秋ごろに花付けてくれないかなーって思ってるんだ。
    バルーンさんへイエイエとんでもございません。自分、国語は一番の苦手教科で…。ブログの日記、いつも美味く書いてると感心してるよー!

  5. キースさん、こんばんは~☆
    (o^-^)ヾこヾ(^o^-) ん(o^ー^)o ばo(^0^o*)ん(o^-^)ヾは
     
    凄い!
    どこのお話かって読んでいたら最後に・・・(^^;
    えぇーーー、キースさんが作った小説なんですねっ!
    読んでいてキースさんの優しさが伝わってきましたよ。
    大切なもの・・・
    いつも「心の瞳」で見つめること、大切にしたいですねっ^^
    次のお仕事は「赤いマスクをかぶって幸せを運ぶ男」になるのはどうでしょうか。
    幸せを運ぶ先は・・・(*\’-\’*)エヘヘ
     

  6. 凄い?ひだまりんの方がもっと凄いよー。
    幸せを運ぶかー。いい言葉だね。
    俺には荷が重すぎだよー。
    マスクマンの話はいつか作ってみたいなぁー。
    走り屋さん(誰とは言わない)にも友情出演してもらおうかなー?

 

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